いわゆる「強調構文」(分裂文) (長文です…)

 
お恥ずかしいことに、最近、安藤貞雄著『基礎と完成 新英文法』を読むまで、
いわゆる「強調構文」と形式主語構文との違いが、わかっていませんでした。。


基礎と完成新英文法基礎と完成新英文法
(1987/02)
安藤 貞雄

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いわゆる「強調構文」とは、次のようなもの。

It was John that broke the window yesterday.
It was the window that John broke yesterday.
It was yesterday that John broke the window.

それぞれ、「John」「the window」「yesterday」が強調(焦点化)されているんですね。

形式主語構文とは、次のようなもの。

It is interesting that you should like him.
It is certain that he died.

itは形式主語で、that以下が真の主語なんですね。

違いが、わかっていなかった。
大学受験のときも、何となく、てきとうにやってました。。


さて、さっきから、「いわゆる『強調構文』」などという言い方をしていますが、
「分裂文」(cleft sentence)というのが、正式な呼び名のようですね。
たとえば、John broke the window yesterday. という文が、
It was John that broke the window yesterday. というように、
二つの節に分裂されるので、そのように呼ばれます。


この文構造を、「(唯一の)強調構文」と言ってしまうことには、問題があります。
安藤貞雄先生は、『現代英文法講義』の中で、次のように書いておられます。(p.770)

学校文法では分裂文のことを“強意構文”と称してきたが,強意構文はほかにも数多くあるので,この名称は適切ではない.


現代英文法講義現代英文法講義
(2005/10)
安藤 貞雄

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では、現在、学習者に人気のある『Forest』では、どのように説明されているか。

総合英語Forest 6th edition総合英語Forest 6th edition
(2009/12/04)
不明

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索引には、「強調構文 436(ページ)」とあります。
そしてその436ページでは、

強調したい語句を It is [  ] that ... の [  ] の位置に入れて表すことがある。これを強調構文と呼ぶ。


と説明しています。
「(唯一の)強調構文」という考え方だと思われます。また、分裂文という呼び名は
紹介されていません。

日本では、昔から、そういう考え方だったのか?
初版が1953年で、定評のある、江川泰一郎著『英文法解説』を見てみます。

英文法解説英文法解説
(1991/06)
江川 泰一郎

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索引を見ますと、「強調構文 40, 319-321(セクション)」とあり、
その下に、「It is ~ that...の~(強調構文) 40, 60B(5), 319」、
「倒置による~(強調構文)(⇒倒置構文)」と、二項目があげられています。

488ページは、表題がまさに「強調構文」で、こう説明されています。

強調(Emphasis)の構文の代表例は It is ~ that... (⇒§40)で,そのほか倒置による場合(⇒§316-§317)と特別な語句を添える場合がある。


It is ~ that... が唯一の強調構文だ、という考え方ではありません。
さらに、分裂文という呼び名も索引にあり、紹介されています。(p.54)

ついでに、これまた定評のある、『ロイヤル英文法』も見てみます。

ロイヤル英文法―徹底例解ロイヤル英文法―徹底例解
(2000/11/11)
綿貫 陽、須貝 猛敏 他

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索引を見ますと、「強調構文」の中に、「It is ~ that ... の~(強調構文)」があり、
この構文だけが唯一の強調構文ではないことが示唆されている、と考えられます。
(なお、分裂文という呼び名は紹介されていません。)


いまどきの学習文法書は、分裂文を、唯一の強調構文と考えているようなのですが、
江川先生ら文法学者が、「強調構文の一つとして、It is ~ that ... がある」としていたのを、
学校・受験文法で、「強調構文とは、It is ~ that ... である」と単純化してしまった因襲が、
脈々と受け継がれているのかな・・・とも思えます。
(「次の文を、~を強調した強調構文に直しなさい」とテストに出しやすい。)


ちなみに、よく売れているらしい、『一億人の英文法』では、どうか。

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大西 泰斗、ポール・マクベイ 他

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この本には索引が無いので、あれなんですが、
「it」の説明のところにありました。
p.214に、「it ~ that ... の強調構文」とのタイトルで、
「it を使った強調構文です。」と書いてあります。
他の強調構文もあることが、ほのめかされていると思います。

ただ、それに続く説明が、少し問題。

it を使った強調構文です。それほど頻繁に使われる形ではありません。というのは,この形は相手の誤解に対して反駁する際に用いられる文だからです。


まず、「それほど頻繁に使われる形ではありません」との記述。
英国を代表する言語学者、David Crystal 先生の『Making Sense of Grammar』では、

Making Sense of GrammarMaking Sense of Grammar
(2004/04/21)
David Crystal

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分裂文について、

This construction, which appears in several variant forms, is the most elaborate grammatical means English has of making a clause element prominent. It is very common in speech, but it is also a convenient strategy in writing, because it offers writers flexibility over where to locate their focus. The construction is also easy to read aloud, as there is no uncertainty about where the centre of prosodic prominence goes.


と書かれています。(太字強調はたか先斗町)
話し言葉でもよく使われるし、書き言葉でも便利な構文だ、ということですよね。


『一億人の英文法』のもう一つの記述、
「というのは,この形は相手の誤解に対して反駁する際に用いられる文だからです。」
にも問題があります。
反駁する際だけに用いられるわけではないからですね。

たしかに、分裂文には、「~ではなくて、~なんだ」という気持ちがあります。
他の誰かじゃなくて、ジョンが窓を割ったんだ、というように。
ただ、そう言う場面は、「相手の誤解に対して反駁する際」だけに限りませんよね。
相手がまだ何も言っていない間に、事情を明らかにしておくために、
「It was John that ...」と言う場合だってあり得ます。


というわけで、『一億人の英文法』の上の記述、

「それほど頻繁に使われる形ではありません。というのは,この形は
 相手の誤解に対して反駁する際に用いられる文だからです。」

というのは、むしろ、

「頻繁に使われる形です。というのは,この形は,
 言いたい要素を強調するのにとても便利な文だからです。」

というほうが、実情に近いのでしょう。


さてさて、分裂文は、最初に書きましたように、形式主語構文との区別ということが
問題にされます。

『Forest』では、こう書かれています。

「強調構文では動詞や形容詞を強調することはできない。」(p.437)
It is [形容詞] that ... の形になっている場合
 強調構文で形容詞を強調することはできないので,この形になっていれば形式主語。
 It is important that you understand this. (君がこのことを理解することが大切だ。)」(p.508)

ところが、『ロイヤル英文法』は、ニュアンスが少し違います。

「It is と that の間の語が形容詞またはそれに類する語句であれば形式主語構文,
 名詞・代名詞・副詞(句・節)であれば強調構文のことが多い。」(p.188)

「多い」と言っています。そうでない場合もあるということ?

江川『英文法解説』が説明してくれてます。(p.54)

補語になる形容詞や様態を示す副詞は,原則としてこの構文(分裂文)で強調することはできない。つまり It was young that he looked. とか It was slowly that he walked. とは言えない。ただし,次の文は一応可能である(Quirk,CGEL,§18.27)。
 It's dark green that we've painted the kitchen.


形容詞は原則として入らないが、入る場合も一応はある、ということですね。
(目的語補語になる場合は入る、ということか。)

(なお、安藤『現代英文法講義』に、おもしろい記述があります。(p.774)
 容認度は低いが、形容詞や、さらには動詞句の焦点化があるという例。
 ?It's very tall you are.
 ?It was teach English in a school that he did at that time.
 まぁ、使わないほうが無難だとは思いますが。。)


ついで、時制の問題。
『Forest』では、こう書かれています。(p.436)

(例文) It was Jim that caught a turtle in this pond yesterday.
例文のように文の時制が過去であれば,It was [  ] that ... の形になる。


「時制の一致」が必要であるかのような記述ですが、
『ロイヤル英文法』によれば、(p.188)

過去の文については<It is ~ that ...>とする場合もあるが,<It was ~ that ...>とするほうがふつうである。yesterday や last year などのような過去の時を示す副詞語句を強調するときは<It was ~ that ...>にするのが原則である。


It is here that the battle of Waterloo was won. という例文も見られます。(p.187)
(ウェリントン公がイートン校で言った言葉として有名だそうですが、出典には議論があるとか。)

江川『英文法解説』の説明。(p.54)

It was/is last week that I saw him. のように that 以下が過去の場合,前のほうは was でも is でもよいが,was で時制を一致させるのが普通である.


安藤『現代英文法講義』の説明。(p.775)

分裂文では,(i) のように,主文と従属節の時制は照応することが多い.
 (i)  It was John who broke the window.
   (窓ガラスを割ったのは,ジョンだった)
しかし,それは義務的ではない.(ii) のように,発話時における行為者の同定(identification)を主眼としている場合は,主文に現在時制が用いられる.
 (ii) So it's the butler who killed Mr. Smith.
   (では,スミスさんを殺したのは執事なんだね)



さらに、It's I か It's me かの問題。

『Forest』では、こう書かれています。(p.437)

強調するものが代名詞の場合 主語であれば主格を用いる。
It is I who am responsible for safety in this theater.
(この劇場の安全管理責任者は私です。)
ただし,次のように目的格を使って表すことが多い。
It's me that[who] is responsible for safety in this theater.


しかし、「It is I」というのは、かなり違和感のある言い方です。
江川『英文法解説』では、こう説明しています。(p.54)

一般の文法書ではよく It's I that am to blame. (悪いのは私です)という文を例にして,I と am の一致関係を示している。しかしこの文はいかにも文法臭い文で,口語では It's me who's to blame. となる(Quirk,CGEL,§10.44n.)。


「文法臭い」というのは、つまり、すごく規範文法的(prescriptive)だ、ということでしょう。
ラテン語文法を模範とし、たとえば、「ラテン語文法で主格を使うべしとされていたので、
英語でも主格を使うべし」とした、人工的な文法体系。
現実の英語では、誰も「It's I」などとは言わないのに。。


つらつら見てまいりましたが、意外と、江川『英文法解説』なんかのほうが、
新しい、いまどきの文法書よりも、記述が正確で、信頼できるのかなぁ・・・
という気もしています。
まぁ、新しい文法書は、読みやすいなどのメリットがあるとは思うのですが。
(『Forest』に、参考文献リストが一切ないのは、ちょっと気になる。)


えらい長文になってしまった。。
最後に、安藤『現代英文法講義』にあった、形式主語構文の一例をあげて、
終わりにしたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

It's tough being a man.  (男はつらいよ)
 
 

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